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特集 21 2010年8月〜12月

三代津太夫 増補

 

偲ぶ面影 在りし日の竹本津太夫師 (文楽芸術 第壱号 口絵 昭和十六年八月発行より)

 第21回の特集は、三代津太夫の追加音源です。三代津太夫は、明治2年に福岡生まれ。祖父と大阪へ出て、三代濱太夫の預かりとなり濱子太夫を名のり、その後二代津太夫に入門。明治21年に文太夫に改名、そして濱太夫を経て明治43年に三代津太夫を襲名。さらに大正13年5月には三代越路太夫の後をうけて文楽座の紋下となりました。その時の披露は熊谷陣屋でした。得意な語り物としては、太十、熊谷陣屋といった時代物や、沼津、河庄、城木屋などの世話物がありました。理論家ではなく、大きい直感的な語りの人であったので、まとまった芸談著作は残しておりません。また、相三味線となった人は数多くいますが、特記すべきは文太夫の時に野澤勝鳳の三味線におおいに鍛えられたこと、六代鶴沢友次郎とは比較的長く続きました。今回の音源は、大正中期に発売されたレコードで六代友次郎と組んだものです。旧式の録音ですので、ノイズで聞き苦しい点はご了承下さい。音源はレコード1面単位で載せます。テキストは「文楽浄瑠璃集」(岩波書店)「義太夫全集」(日本音曲全集)「歌謡音曲集」日本名著全集)など、芸談は、「文楽三代」「四代竹本津大夫芸話」や、その他上演資料集を参考にしてください

 さて今月、コロンビアレコードにて昭和初期に発売された義太夫SPレコードから、友次郎と組んだ傑作「沼津」、他「忠臣蔵六段目」「堀川」「尼ヶ崎」、四代鶴沢叶と組んだ「寺子屋」「すしや」が、CD復刻されます。「沼津」にて、他の追従を許さない三代津太夫の熱演では、まさに老雲助平作と渾然一体となって語っているかのようです。また、三代清六の教えを受けた山城の合理的な原作主義に対して、昔からの文楽系の津太夫のものは入れごとが各所にあります。千本松原の別れでの「御念仏をおっしゃりませ」あたりは津太夫自身の床本にもなく、記憶だけで語っていたということです(昭和25年ラジオ放送 名人のおもかげ資料 四代津大夫述)。その力一杯の語りには、聴き終わってからも後に残る情味というものを感じます。是非、この義太夫界の素晴らしい遺産を途切れのない音源の形でじっくりと聞き入ってみたいものです。以前、当HPにて経済状況から復刻は難しいのではと無責任な記述をしておりましたが、杞憂に終わりました。お詫びしますとともに、当該関係者の皆様の英断に対しては謝意を表したいと思います。


音源再生をするためには、PCにソフトウエアQuickTimeが入っていることが必要です。

(なければ最新QuickTimeがこちらから無償で手に入ります。QuickTimeインストーラをダウンロード後、インストールしてください。)


三代竹本津太夫・六代鶴澤友次郎 一谷嫩軍記 熊谷陣屋の段 4面

ニッポノホン盤 (大正7年 発売)

三代竹本津太夫・六代鶴澤友次郎 恋娘昔八丈 城木屋の段 2面

ニッポノホン盤 (大正7年 発売)

音源