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年賀状 竹本摂津大掾 直筆 明治末期頃

                   


特集44 編集後記

       
 先日、久しぶりに壺屋を訪れる機会があった。歩くと汗ばむほどの陽気は季節が戻ったようである。タイミングよく民藝運動との交流に関する展示を観ることが出来たのだが、他に印象に残ったのは、おそらく昭和に記録したであろう短編映画である。良いものを作るためには人間性を磨けと人生の回り道を諭す親方や雑然とした前近代的な工房の様子に在りし日の焼き物の街のエネルギーを感じた。

 最近、メディアでは平成を振り返る番組や記事が賑わせている。やはり平成期に特筆すべきは、情報通信技術が凄まじい勢いで進歩したことだろう。そして、その技術によって、個人のブログから企業・公的データベースまで膨大な知識や経験、社会活動の蓄積が共有された。そこからは、いい意味でたくさんのロールモデルや人生のノウハウが示され、シミュレーションによってリスクを避け、回り道をしないで最善の一手を打てるようになってきた。そして悪い点として、成果主義の観点から泥くさい試行錯誤や効率の悪い取り組みは嫌われるようである。

 世の中には、美しくまた感動をもって花開く仕事があるが、様々な事情から長い間の苦労と水準以上の習熟が要求される。だからこそ、敬意を払いながら支えていくべきものである。苦難があるかもしれないけれども、夢を持ち続ける若い人を育てよう。新しい年を迎えるにあたり、そんなことが気になりながら、新たなる文楽の発展を願うばかりである。

 毎度おつき合いいただき有り難うございます。特集では、六代竹本土佐太夫で、三味線四代野澤吉三郎(後の七代野澤吉兵衛)の音源を取り上げました。六代竹本土佐太夫の音源は数少ないですが、手持ちのものは過去の特集と今回で紹介しました。明治・大正・昭和を代表する太夫の一人ですが、なんとも言えぬ美声に惹かれます。 また現在、HTML改訂やブラウザのアップデートに伴い音源の再生表示に不都合が見られます。対応のリンクを整備したり、過去の未対応分を少しずつ修正していきます。 次回の特集も検討中です。今後とも、宜しくお願い致します。
              

2018. 12. 31 大枝山人