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特集5 編集後記

 

  楽しみはまれに魚煮て児等皆がうましうましといひて食ふ時(橘曙覧)
最近、出入りの魚屋さんからこれが最後ですと一本の蒲鉾を渡された。日本海に面する小さな町で百年以上も続く老舗特製のもので、私のお気に入りの酒のあてであった。なんでも道路の拡張で移転を余儀無くされ、大量生産品との競合の前に店の新築をしてもやっていけないということで廃業となった次第である。効率主義、商業主義の前に弱者はいとも簡単に消え去ってしまう。文化もまた同様であろう。先人は目先の損得抜きで上質なものを守るため倫理、決まりごと、自戒といった超えてはいけない一線を設定してきた。しかし、そんなことなどお構い無し、世界でも珍しい何でもありの国では便利、お手軽へとひた走るのである。なくした後で事の重大さを知ることになるだろう。四月文楽公演初日、正面玄関前の桜は劇場開場二十年を祝福するかのように早めの満開で迎えてくれた。公演内容についてここでは触れないが、劇場の係りの方や売店での対応については完成の域に達している。次の二十年も観客が楽しめるように、されど媚びることなく地道に質の向上を心掛けて頂きたいと思う次第である。おそらく年月は劇場に情緒をつくり出してくれると期待する。

さて、今回の特集までで三巨頭の全員を取り上げました。今後はその他の名物とされた人々を紹介していきます。私見ですが、今まで断片的に書いてきたように日露戦の頃からモダン文明の大衆化が始まり、日本人の心の有り様、感受性にも多様性を見せ始めたと考えられます。このことは観客層の中に多様な価値観、好みを認める基盤が生じることになったことでしょう。そして三巨頭時代が受容されることになったのではないでしょうか。芸は常に時代と共にある。我々鑑賞者には実は大きな責任があります。無責任な礼賛や要望は将来に大きな影響を及ぼします。児等を育てるごとく、質を重んじる態度と楽しむ努力が肝要かと思うのです。今回も特集にお付き合いいただきありがとうございました。リンク等で古いものについては少しずつ修正していきますので、しばらくお待ちください。また、御問い合わせのメールについてはプロバイダ−のシステムがよくない様ですので、メールソフトにてTOPアドレス宛にお願いします。今後とも宜しくお願い致します。

  2004. 4. 25 大枝山人