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「引窓」 木村荘八  戦前はがき 春陽会出版部 91mm x 142mm

                   


特集33 編集後記

 先日の皆既月食では、街の雑踏の空に赤銅色の月が浮かび何とも言えないもの寂しさを漂わせた。春以降、住大夫師に続いて源大夫師も引退した。ずっと体調が思わしくなかったので、出演も限られていたが、昭和期から文楽を牽引してきた人が舞台を去ることには哀愁を感じた。かつて織大夫時代にその師匠仕込みの爽快な口捌きに惹かれて義太夫に興味を持ったものだ。当時、文楽のテレビ放映でも目にする機会が多かった。そういう意味では、当方にとって義太夫好きになるきっかけになった恩人である。恐らく他の方もそうであったかもしれないが、あれから老境に向け過大な期待があったかと思う。引退されても、まだまだ芸系伝承に力を尽くしていただきたい。今回、「名人のおもかげ資料」の追加は、源大夫師関連と言うことで、祖父にあたる七代源太夫とその相三味線四代仙糸を取り上げた。厳しい修行と時代背景、芸へのこだわりと誇りなど生々しい生き様の話である。
 さて、秋も深まり、いよいよ11月公演である。第一部は、「双蝶々曲輪日記」、好きな演目である。特に引窓の段では継母、与兵衛改め十次兵衛、嫁おはや、継母の実子長五郎らの情愛と義理、そして葛藤が混ざった濃密な時が流れる。さらに引窓の暗喩で見せる心情の明暗の描写は美しいが、語るのが難しいのは容易に想像できる。二代豊竹古靱太夫(山城少掾)のものが近代浄瑠璃の規範といわれた。義太夫は、人物語りわけ、腹芸、間の技巧どれをとっても難度が高い。新しい陣容がいかに挑むか楽しみである。最後に、引窓から射し込む月の光が心をそっと浄化してくれることを願いたい。

 特集が間に合わず、順番が前後して申し訳ありません。現在準備中です。今後とも宜しくお願い致します。

2014. 10. 19 大枝山人