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マリオネット劇場(ミュンヘン)


特集13 編集後記

恒例の素浄瑠璃の会も終わり、そろそろ世の中は夏休み期間を迎えている時期である。これから、旅行、里帰り、ボランティア活動といろいろと予定されている方も多いと思う。もし海外旅行で欧州方面に行く機会があれば訪問して頂きたい所がある。昔、ウィーンに住んでいた頃に、ミュンヘン市内にある人形芝居博物館に勤務している年配のドイツ人と知り合いになった。切手コレクターで、日本の切手が欲しかったらしく声を掛けてきたのである。彼の勤務していた人形芝居博物館では、世界中の人形芝居の情報や関連の資料(人形や道具類)を収集展示していた。そこの展示ケースの中の文楽人形は大層妖しげな魅力を放つ存在であった。彼とは帰国後もしばらく交流があったが、もう勇退されてすっかり音信も途絶えてしまった。ミュンヘン周辺は自然に恵まれ、かつてバイエルン王国の都であり文化芸術を大切にする土地柄でもある。南ドイツ地域で盛んなマリオネットに関しても、ミュンヘン市内に上の写真のように約150年前のマリオネット劇場も残っている。近隣のオーストリア・ザルツブルグにはさらに立派な舞台設備と社交用のブッフェもあるマリオネット劇場があるが、ミュンヘンのものは土間に客席の椅子が置かれた素朴なものであった。私が訪れた時には大人と学童・生徒の混成チームで運営されており、典型的な文化継承の型を見せてくれた。プログラムは、モーツアルトのオペラや伝統的な道化芝居といったもので、幕間はそのまま土間で談笑や異邦人への語りかけといった時間であった。年少から伝統芸能に接している人は、芸事に対して自然体でうらやましく思う時がある。マリオネット劇場で私に語りかけてくれた異国の学童・生徒たちは今頃どうしているだろうかと気になるところである。私にとって風土環境や文化系統の異なったものの見聞は、日本の浄瑠璃の独自性を改めて実感した一つの機会であった。なにかと一期一会を期待したい夏休みである。

さて、特集におつき合い頂き有り難うございます。三代津太夫、友次郎師の音源は今後も追加して行く機会を持ちたいと思います。また展示では、主な浄瑠璃関連の雑誌表紙を掲載しましたが、興味を絞って中身の記事等も取り上げていく予定です。次回の特集と展示室も、準備を開始しましたのでお待ちください。今後とも宜しくお願い致します。

  2007. 7. 21 大枝山人