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ニット−レコード 包装紙

             


特集21 編集後記

 大大阪時代と呼ばれる頃、大阪に日東蓄音器株式会社という会社があった。大正10年4月に第一回の発売で、二代豊竹古靱太夫と三代鶴澤清六による御所桜三段目や寺子屋といった段物レコードなどを世に出した。これが、ツバメ印ニット−レコードである。曲種は、特に大阪色のある邦楽に力を入れ、宣伝のため市中で演奏会を主催したり、さらに技術革新にも挑戦的で長持間レコードを手掛けている。経営陣のひとり森下辰之助は、義太夫愛好家としても有名で、邦楽同好会も設立し邦楽の継承に尽力している。日東蓄音器は、業界の状況の変化などで、演奏家と技術、商売の連動がうまくいかなかったようで昭和初期に姿を消した。しかし、それまでに文化遺産というべき数多くのレコードが発売され、好事家らの手許に保存された。戦後、一部は安原コレクションで有名な安原仙三氏らによって、ラジオの電波にのる事もあった。また現物は、文楽の展覧会などで陳列されたりしたらしい。
 それから、かなり時は下って平成2年から3年にかけて、国立文楽劇場を中心に文化的遺産を次世代に引き継ぐ事を目的として、明治末期から戦後にかけて発売された義太夫SPレコードの調査と録音テープが作製された。その成果で一般公開として義太夫SPレコード観賞会が行われた。その中でニット−レコードについても幾つか公開されている。(この一般公開が続かなかったことは、音曲の司の記事が詳しい。)さらにその成果は、義太夫SPレコード集成ニットー篇の三部や上演資料集の付属CDとして広く?頒布された。しかし、その後がまた途絶えてしまった。山城の評伝が出た時には、数多くの復刻CDがあるべきだったのに。
 手前味噌であるが、平成14年から可能な範囲で当サイトで公開に着手したつもりであるが、いささか規模が力不足である。この度、日本コロンビア、紀伊国屋書店による企画物によって、再度ニットーレコードの義太夫音源が世に出る事になった。平成18年に復元された長時間レコード音源以来の朗報である。個人的には、大正を代表する名人三代清六の三味線を聴ける事が待ち遠しい。そしてまた、復刻盤を聴いた人々が、感動を次に伝えていくことを期待したい。

 さて、特集におつき合い頂き有り難うございます。今回は、復刻記念として三代津太夫を取り上げました。国産レコード100周年ということで、このところ音源復刻ラッシュとなっていますが、映像でも注目する事がありました。早稲田大学演劇博物館がフランスから入手した御霊文楽座時代の面々でのフィルム映像もニット−レコード復刻盤とあわせて手に入ります。興味ある映像がこんなに早く世の中に出るという事は、時勢にあった素晴らしい対応であります。次の特集は、ニット−レコード復刻に関連したものを考えていますので、しばらくお待ち下さい。今後とも、宜しくお願い致します。

  2010. 11. 21 大枝山人